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地域手当の制度は裁判官だけでなく、すべての公務員、ひいてはすべての勤労者にかかわる問題だ!

 報道によれば、7月2日、津地方裁判所民事部総括の竹内浩史判事が国を相手取って名古屋地方裁判所に「違憲訴訟」を提起し、(地域手当)減額分の合計約240万円の支払いを求めたとのことです。
 
 憲法80条2項には、「(裁判官の)報酬は、在任中、これを減額することができない」と書いてありますので、地域手当の減額は報酬の減額に当たるという主張です。
 インタビュー記事が公開されていますので是非ご一読下さい。
 
 確かに、人事院規則には地域別に細かく地域手当の割合が書いてあります。一級地・百分の二十に始まり、七級地・百分の三となっています。一級地は東京都の特別区だけであり、大阪市は、二級地、愛知県では、名古屋市は、三級地ですが、不思議なことに刈谷市と豊田市が二級地です。岐阜県を見ると、岐阜市は、六級地でその他の市は七級地です。等級のない地域は、地域手当ゼロとなります。 
 竹内判事によれば、「裁判官についてこれだけの差をつけるのは、昇格・昇給と相まって、差別の温床になる可能性があると考えています。」ということです。竹内判事はご自身が受けた差別について詳しく述べていますのでご覧下さい。

 

 また、「支部の裁判官によっては『こんなに大変なのに、地域手当が低いせいで収入が大きく減った。やっていられない』ということで、裁判官を辞めてしま うケースもあります。」とも述べています。

 私が重要だと思ったのは、「このままでは、裁判官のなり手が不足し、国民に司法サービスを提供するという裁判所の機能が果たせなくなってしまうという危機感があります。」という発言です。
 誰しも法律だけでなく世情にも精通した裁判官にシッカリ事件と向き合って裁いて欲しいと思います。それは、訴訟当事者になった国民の皆さんだけでなく、我々弁護士も同じです。人員不足であれば困難です。

 

 更に、凄いことですが、竹内判事は、「地域手当の制度は裁判官だけでなく、すべての公務員、ひいてはすべての勤労者にかかわる問題だと考えている」とも話しています。恐らくそういう展望の下に、その後弁護団と協議し、戦略変更をしたと述べていますので詳細は前記インタビュー記事に当たって下さい。その結果、国家賠償請求ではなく、公法上の実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)に変えるようです。要は、地域手当の減額が憲法80条2項に違反するという裁判官の訴訟から、根拠となった人事院規則2条別表1の内容が給与法に違反するとして公務員全体の訴訟に転換したものと思われます。裁判官固有の憲法問題は、その中で主張するようです。

 

 勝訴するかどうかを含めて極めて困難な訴訟になることはご本人も認めていますが、提起された問題自体は、極めて重要だと思います。
 裁判所の未来を見据えて、いわば我が身をまな板の上に差し出した竹内判事ですが、その視線は、国・地方の公務員から更に全ての勤労者にも及んでいます。
 竹内判事に敬意を表し、エールを送ります。

弁護士 平井

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