「丸山穂高衆議院議員の発言は議員辞職に値するか」
「丸山穂高衆議院議員の発言は議員辞職に値するか」
1 日本維新の会の丸山穂高衆議院議員は、北方領土へのビザなし交流の訪問団に、
「顧問」として同行し、5月11日夜、国後島の宿泊施設での懇談の場で、
元島民の団長に対し、いきなり「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」
と切り出し、「戦争するべきではない」と否定されると、
「戦争しないとどうしようもなくないですか」
とたたみかけたとのことです。(以下、「戦争発言」といいます)。
https://www.asahi.com/articles/ASM5F7G81M5FIIPE02T.html?iref=pc_extlink
朝日新聞は、北方領土を武力で取り戻すという選択肢は、
そもそも日本の国是に反すると主張しています。
https://www.asahi.com/articles/DA3S14014339.html
憲法9条は国際紛争を解決する手段としては、戦争を放棄すると規定しています。
また、国連憲章51条は、武力の行使を「武力攻撃が発生した場合」
に限定していますから、ロシアの占領が70年以上前に完了している現在では、
幾ら不法な占領が継続しているとしてもこの要件にも反します。
国際紛争の解決には、平和的手段しか許されないのです。
実際問題として、核大国であるロシアを相手に戦争して、
「この島を取り返す」ことができるとも思われません。
戦争発言は、戦争による国際紛争の解決へ賛意を促す重大かつ危険な「政治的」主張です。
2 この原稿作成時点で、国会の対応は、野党が辞職勧告決議案を提出する動きが
ある一方で、辞職勧告は、刑事罰に当たるかどうかが判断基準だったとして、
与党は、譴責決議案を提出する動きが出ています。
この点をどう評価すべきでしょうか。違いは、議員の身分に関わる程厳しく非難
するのか、議員の身分を前提に一定の非難を与えるかという点です。
刑事罰に当たる行為をした国会議員が辞職に値する場合があることに異論は
少ないでしょう。確かに戦争発言は、刑事罰には当たりません。
政治的外交的に(間違いなく軍事的にも)著しく妥当性を欠くというだけのように見えます。
政治的発言であれば、たとえ少々行き過ぎても言論の府で反対意見と闘わせば良いと
考える向きもあるかも知れません。
しかし、この考えは危険を甘く見ており間違っていると考えます。
3 戦争発言の考え方を推し進めると、竹島問題は、同じ理屈で韓国と戦争する
しか解決できないという主張になります。
また、尖閣諸島を巡る問題でも、これも同じ理屈で中国と戦争するしか解決
できないという主張になるでしょう。
放置しておけば、拉致被害者の奪還のために北朝鮮と戦争するしかないと
いう主張になるかも知れません。徴用工問題を巡る韓国の判決についても
戦争するしかないという主張につながりそうです。
逆に、北方領土を戦争で取り戻すという主張が許されるのであれば、
他の国際紛争でそれが許されない理由は見付からないでしょう。
戦争や国際関係の現実がまるで理解できていない子供じみた発言ですが、
なぜ、これほど無知蒙昧極まる発言が国家議員から出てくるのでしょうか。
選んだ人にも責任があると思います。
4 前記のとおり、戦争発言は、憲法9条だけでなく、国連憲章51条にも違反する
軍事行動への賛意を促す主張です。国会議員には、憲法によって守るべき限界が
定められています。憲法99条は、国会議員の憲法を尊重し擁護すべき義務を
定めています。憲法98条2項は、日本国が締結した条約は、誠実に遵守する
ことを必要とするとも定めています。従って、戦争発言は、憲法尊重擁護義務
に直接違反し、条約遵守義務の趣旨に違反します。
刑事罰該当行為とは比べものにならないのです。もっと重大な憲法と国際法違反
である戦争への賛意を促す発言なのです。
丸山議員本人は、ここで辞めれば前例になるから絶対辞めないと言い張っている
ようです。しかし、このような発言に甘い対応を許せば、同様の発言が無軌道に
吹き出しかねない前例になります。そのような間違った方向に傾くことにシッカリ
とブレーキを掛けるのが国会の役目だと思います。
5 ですから刑事罰に当たらないことは辞職勧告を否定する理由にはなりません。
①憲法を守って政治を行わなければならないという立憲主義と
②平和的手段で国際紛争を解決しなければならないという国際法とを理解して
いれば、速やかに辞職勧告決議をなすべきです。
刑事罰との比較で「慎重に検討する」という態度は、一見思慮深い態度のように
見えますが、実際は、立憲主義や国際法の理解が不足しているのです。
国会議員は、言論の自由が保障されていますが、何でも主張して良いものでは
ありません。
憲法や国際法の根本秩序を武力で破壊することに賛意を促すような政治的発言は、
厳に戒めるべきです。国家議員の言論の自由は、憲法と国際法の枠内でなすべきです。
戦争発言をした国会議員には、その資格がないのです。
国会の見識が問われています。
弁護士平井治彦