中学卒業時に採られた指紋 ― 無罪者データ抹消判決から考える個人情報の行方
晩秋の趣が深まり、朝夕の冷え込みが厳しくなってきました。
澄んだ空気の中、昨年9月の司法判断を改めて考えます。
報道によれば、「暴行罪の無罪が確定した名古屋市の男性が、警察が保管するDNA型、指紋、顔写真のデータ抹消を国に求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は30日、一審名古屋地裁に続き、抹消を命じた。『無罪確定後も男性の意に反して捜査機関にDNA型などが保管されていることは憲法14条が定める[法の下の平等]に反する』と言及した。」とのことです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE308XB0Q4A830C2000000/
これは無罪が確定した人の話ですが、私は、何も犯罪を犯したことがないのに右手左手の全部の指紋を採られた経験があります。
私は、名古屋市立のある中学校を卒業しております。卒業に先立って行われた「行事」として、在校生全員が指紋を採られたのです。手指の成長がほぼ止まっており、大人になっても指紋照合ができると見込んで卒業記念の「行事」として行われたのかも知れません。恐らく警察官だったと思いますが、私服で何人かが机を並べて立っており、生徒が順番に進み出ると両手の指に黒色の塗料を付着させ、それを用紙に押し付けて指紋が採られた記憶です。
その時は、素直に従ってひと仕事を済ませたような、犯罪とは縁のない将来を自分と約束したような、何となく潔いサバサバしてスッキリした気分もありましたが、どうにも解せない思いが伏流水のように続いておりました。
後年智恵が付いて時々思い出すのですが、明らかに法律的根拠のない違法な指紋採取だったと思います。学校の校長など管理者も犯罪者予備軍として卒業生を見ていたのか見ていなかったのか、教育者としての認識はどうだったのか、できることなら聞いてみたいものです。
こうした疑問に対し、犯罪を犯しておらず、将来とも犯罪者にならないのであれば、別に気にすることはないという意見もあるかも知れません。当時の私の気持ちです。しかし、指紋は人の同一性を識別する重要な個人情報です。その個人情報はみだりに他人の管理下に置かれるべきではありません。他人の指紋の悪用という事例が今後発生する可能性もあります。
産経新聞のネット記事を引用します。
https://www.sankei.com/article/20170109-LDQIKKCXIJJ6HH3VPNKMS3SDO4/
「スマートフォンなどの個人認証で利用が広がる指紋がインターネット上で狙われている。投稿された手の画像(写真)から指紋の模様を読み取り、個人情報として悪用することが可能だからだ。国立情報学研究所(東京)はこうした指紋の盗撮を防ぐ新技術を開発しており、犯罪防止に向け2年後の実用化を目指している。」と述べています。
そればかりではないのです。事件現場に、偶然、指紋を残した人が犯人として追及される危険性があります。
例えば、Aさんが友人Bさんのお宅に遊びに行って夕食後ご馳走になって帰ったとします。その一週間後にBさんのお宅に侵入した何者かによってBさんが殺害された事件があったとします。
警察は、Bさんのお宅を捜査し指紋を採取するでしょう。採取した指紋をデータベースの画像と照らし合わせてその指紋をAさんの指紋と特定したとします。そこからAさんに対する捜査が開始され、Aさんの借財、家庭環境、生育歴、交友関係からBさんとの個人的人間関係など、本人が知らないところで重要なプライバシーに属する背景事情が内偵されていきます。
犯罪捜査規範 第101条には、(聞込その他の内偵)として、こう書いてあります。
「捜査を行うに当つては、聞込、尾行、密行、張込等により、できる限り多くの捜査資料を入手するように努めなければならない。」
Aさんらしき人影を見たと証言するCさんも現れます。Aさんは、Bさんのお宅に遊びに行っていますので目撃者がいても当然です。
そうすると、加害者はAさんではないかという推定が成り立ちます。
Aさんは殺人犯の被疑者として警察の捜査対象になり、やがて逮捕されます。
色々弁解しても、室内から指紋が発見されていますので容疑を晴らすことは極めて困難です。
逆に、Bさんのお宅から指紋が採取されなかったり、採取された指紋がAさんと特定できなければ、指紋を起点としてAさんが捜査対象になることはないでしょう。
それ程指紋は強力です。
コンビニ窃盗冤罪事件としてNHKで報道された事件もあります。
https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/visualisation/falseaccusation/case9.html
私は、犯罪を犯しておりませんが、両手の全部の指から指紋を採取された過去を思うと、事件に巻き込まれる危険があることは抽象論ですが自覚しています。
今でも警察のデータベースに私たち同級生を含めた指紋が残っているかどうか問い合わせてみても良いかも知れません。
弁護士 平井
